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香芝の民話たんだの椿

ページID:0004164 更新日:2018年12月20日更新 印刷ページ表示

たんだの椿1

いつのじぶんのことやろか。
平野(ひらの)の村の、ずっと西のはずれに、ぎょうさんの家がかたまって建(た)ってたんやて。
「平野千軒(ひらのせんげん)」いわれたぐらいやよって、きっと、よみきれんほどの数(かず)やってんやろなぁ。

たんだの椿2

その「平野千軒」の中になあ、今でいう村長さんの家やろか。
まわりをぐるっと土塀(どべい)でかこんだ、大きな家があったそうや。
その家の、門(もん)を入って本屋(ほんや)までの道のわきに、二抱(ふたかか)えもある大きな椿(つばき)の木があってな、毎年毎年(まいとしまいとし)見事(みごと)な花をいっぱい咲(さ)かせたそうや。

たんだの椿3

椿の紅(あか)い花が、ころころとじべたにころがりはじめ、そのうち、地面(じめん)が見えんくらい、花で花で一面(いちめん)になると、村の人らが門のそばまでその椿の花の敷物(しきもの)を見んに来やはるほどやったそうや。

たんだの椿4

なんでもこの屋敷(やしき)には、若い娘(むすめ)はんが一人いやはるという事やが、誰(だれ)も顔を見たもんはない。
「あんまりきれいな娘やから、虫つかんようにしもたはんねやろ。」
という者もいたし・・・

たんだの椿5

「あんまりへちゃやよって、目につかんように隠(かく)したはんねんやろ。」という者(もの)もいて、人の口はさまざまやった。

たんだの椿6

その年も、椿が満開(まんかい)になった。
花、見に来る人も増(ふ)えて、中には、花があんまり見事(みごと)やさかいにと、枝(えだ)ぐち折っていく者まででるしまつや。

たんだの椿7

そのじぶんから、誰(だれ)いうとなく、「椿屋敷(つばきやしき)のお姫(ひめ)さん、寝(ね)たはるらしいで。」
「わけのわからん、重いわずらいやそうや。」
と噂(うわさ)がたちはじめた。

たんだの椿8

「薬屋(くすりや)はんが入って行かはった。」
とか「お医者はんの籠(かご)が出てきた。」
とか、村の者は寄(よ)るとさわるとそんなひそひそ話をしていたそうや。

たんだの椿9

そうこうしているうちに、あのいくいくしてた椿の木が、今日は東っぺらの枝が枯(か)れ、つぎの日には西っぺらの幹(みき)が腐(くさ)るという具合で、目に見えて弱ってきよる。
「なんでやろ。」「どないしたんやろ。」
と、あれこれ手をつくさはったが、いっこうに良うならん。
旦那(だんな)はんは、あんまり気色(きしょく)悪いもんやから、下男(げなん)にいいつけて椿の木を根本(ねもと)からばっさり切り倒(たお)させはったそうや。

たんだの椿10

娘さんの病(やまい)が、そののちどうなったんかは誰にもわからん。
ただ、「平野千軒」では、ひとり死に、ふたり死にして、火が消(き)えたみたいにさびれてしもうた。
茅葺(かやぶ)き屋根(やね)にはぺんぺん草が生えるやら、軒(のき)はかたむくやら、そのうちくずれかけた土塀(どべい)だけが、あの栄(さか)えに栄えた「平野千軒」のなごりを、わずかに残すだけになってしもうたそうや。

たんだの椿11

それからどれくらいの年月がたったころやろか。
山行きの衆(しゅう)がたまに通(とお)る、谷道(たにみち)のわきの田んぼのあぜに、ひとりばえの椿の木が育っていた。
「昔、切り倒されたという長者屋敷の椿のひこばえや。」
「粗末にしたらあかんで。」
誰かがそう言い出して、椿の木の根本に小さなほこらを建てはったんや。

たんだの椿12

それからというもの、ここを通る人は、誰もかれもがお花やお線香(せんこう)をあげるようになったそうや。
今でもその椿の枝を折(お)った者は、きまってえらい腹痛(はらいた)がおこるということや。

たんだの椿13

谷田(たんだ)へ行って、見てきてみ。
今あるのんは、もう何代目(なんだいめ)もの椿やそうやが、今日もきっと、線香の煙(けむり)があがってるにちがいないさかい。
ひょっとしたら、昔の子どものこんな歌声(うたごえ)が、どっからか聞(き)こえてくるかも知れんで。
「平野千軒 たんだの椿 今もあります 七つ石」


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