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香芝の民話商地蔵

ページID:0004166 更新日:2018年12月20日更新 印刷ページ表示

商地蔵1

磯壁(いそのかべ)の北のはずれの方に、ひっそりと一体のお地蔵様が立っていらっしゃる。
両側には五輪(ごりん)を刻んだ石の碑(ひ)が、お地蔵様に仕えるかのように立っているのを見ても、何ともいわれのあるお地蔵様とお見うけできる。

商地蔵2

ところがこのお地蔵様、よく見ると、お鼻が欠けていらっしゃる。
温厚(おんこう)なお顔立ちで慈悲(じひ)に満ちたご器量(きりょう)は、お鼻さえ欠けていなければ、なかなかのものだといえる。
「何時頃(いつごろ)の事でございますか。」
「何があったのでございますか。」と、おうかがいを立ててみても、おこたえはない。
誰にも何もわからないままである。

商地蔵3

人々はこのお地蔵様を「鼻欠け地蔵」と呼び、丁重(ていちょう)なご供養(くよう)を怠りがちになっていた。
このお地蔵様のご勘気(かんき)かどうか、この界隈(かいわい)では、鼻欠けの娘が多かった。
鼻が欠けておらぬ娘も、何故か容姿(ようし)がかんばしくないという事だった。

商地蔵4

さて、磯壁の南のはずれで、豆腐(とうふ)を作って商う正直者があった。
朝まだ暗いうちから、豆をひく音がし、夜、月あかりの中で、豆を洗う音がした。
働き者の豆腐屋は、豆腐の味もよく、値もやすいと商売はよく、はやっていた。

商地蔵5

ある晩の事。おかみさんが仕事場を洗いながら首をひねった。
「おまえさん。わたしはこの前から考えてるんやが。
豆腐がよう売れる日とあんまり売れん日があるのんはなんでやろ。」
「そう云えば、昨日(きのう)は余ったのに、今日は足らんかったなあ。」

商地蔵6

二人は、商いに波があるのはあたりまえやと、その日は寝たのだが、四、五日たったある晩の事。
おかみさんが仕事場を洗いながら、また首をひねった。
「おまえさん、不思議(ふしぎ)な事に気ついたで。
朝一番に鼻欠け地蔵のそばの娘さんが、豆腐買いに来た日は、一日中商売繁盛(しょうばいはんじょう)や。
あの娘さんが買いに来てくれん日は、商いはあがったりや。」
「そう云えば、今朝一番の客はあの娘やった。
豆腐は早くに売り切れて、今日は早じまいやなあ。」
二人は、おかしな事もあるもんやと話しながら、まぐれかも知れんからしばらく様子(ようす)を見ようと、その日は早寝をする事にした。

商地蔵7

四、五日たったある晩の事。おかみさんは仕事場を片づけながら、またまた、首をひねっていた。
「おまえさん、もうまちがいはないと思うで。」
「わしもまちがいないと思う。」
二人は、そんな事がほんまにあるのかと、信じられない気もするにはしたが、とにかくあしたは早う起きて鼻欠け地蔵さんへお礼に行こうという事になって、その日はそのまま寝たのだった。

商地蔵8

あくる朝、二人はいつもより早く起きた。
空にはまだ星が光っていた。
鼻欠け地蔵さんは、いつもと少しも変る様子はなく、やはり鼻の欠けたお顔で立っていらっしゃった。
豆腐屋夫婦は、地蔵様の前にひざまづいて、お礼を申し上げた。

商地蔵9

その日から、豆腐屋は日増しに商売繁盛になり、次第にお金持ちになっていった。
これを伝え聞いた近隣の商売人は、お地蔵様のご利益(りやく)を頂こうと、日毎に参詣(さんけい)人が引きもきらず、お花やお供物(そなえもの)がたえることはなくなった。

商地蔵10

人々は、このお地蔵様を「商地蔵」と呼ぶようになり、もう「鼻欠け地蔵」という人はいなくなった。
それとともに、村の娘達の間に無器量(ぶきりょう)は影をひそめ、今では、容姿整(ととの)った娘ばかりだと誇(ほこ)っているそうや。


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